大学院1年生の時に制作した「〜ルンルン」というタイトルの作品について書いていきたいと思います。
「〜ルンルン」
学期末の打ち上げ
芸大の彫金研究室では、学期末などの長期休暇が近づくと、いつもは作業をしているスペースを使って打ち上げをします。
これは芸大の伝統のようなもので、休みの直前だけでなく課題ごとの節目や、イベントの後には必ずと言っていいほど打ち上げがありました。
学生が協力して食事を作ったり、おいしいおつまみを用意して、日頃の制作の疲れを癒します。
課題が終わったら打ち上げ、集中講義の後も打ち上げ、スポーツ大会の後も打ち上げ、なんかその気になったら打ち上げがありました。
とにかく、事あるごとに打ち上げがありました。
もう、何をしに大学に通っているかわからなくなる時もあったのですが、料理や打ち上げの準備のスキルはおおいに鍛えられた気がします。
炊飯器を開けたら白いふわふわが…
事件が起こったのは、僕が芸大の彫金研究室の大学院生だったある日のことです。
とある打ち上げの後、何日か経ってから、炊飯器の中身がそのままになって放置されているのが発見されたのです。
誰だったかは忘れましたが、後輩の女の子が炊飯器を開けた瞬間「あっ・・・」と叫んで固まっていたのが印象に残っています。
蓋を開けたところを覗きこんでみると意外な光景が広がっていました。
美しい白銀の世界です。
白くて綿のようにふわふわしていてウサギの毛の塊のようでした。
しかし、その場にいた人はすぐに気がつきました。
それがカビであることを。
かなりの量のご飯が残っていたのでしょう、炊飯器の内部の空間を半分ほど埋め尽くしていたように見えました。
この時は、それはもう大騒ぎでした。
たぶん当時の後輩が片付けてくれたのだと思うのですが、今思い出すとぞっとしますね。
カビだけの世界
きっと僕たちがその炊飯器を開ける前は、その中は誰にも侵略されることのないカビのためのカビだけの世界だったはずです。
カビキングダムです。
僕達人間がそれに気づくまでの何日かの間は炊飯器の中という限られた世界ではありますが、我が物顔で繁殖を続けていたことでしょう。
しかし限られた空間から抜け出すことが出来ないので、これ以上の繁栄を望むことは出来ない黄昏の世界でもあります。
箱庭的で有限なカビ世界。
「〜ルンルン」はカビの箱庭的な楽園、という世界観のイメージを視覚化して表現した作品です。
メッキで色と質感を表現
「〜ルンルン」は既製品のブリキ缶と彫金の打ち出しの技法で作ったパーツを組み合わせて制作しました。
カビの白くてふわふわした雰囲気は銅板を打ち出して作ったパーツを銀メッキして、白く仕上げて表現しました。
ブリキ缶の中身からニョキニョキ生えているつぶつぶした突起は、真鍮の丸棒を旋盤で精密に加工して金メッキを施したものです。
これらのパーツを表からは見えないように裏からねじ止めして組み立てました。
まとめ
カビの世界をモチーフにして制作した「〜ルンルン」はカビだらけの炊飯器からインスピレーションを得て、制作した作品です。
今思えば想像したくもないようなおぞましい出来事ですよね。
しかし、僕がその炊飯器の中身を見た時の第一印象は「美しい」でした。
その「美しい」という印象を形にしようと思って制作したのが「〜ルンルン」です。
実際に形にすることでどうして、それが「美しい」と感じたのか考えることも出来たと思います。
作品のアイデアというものはどこに転がっているかわからないものですね。
ちなみに「〜ルンルン」というタイトルは、某子供向けアニメに出てくるバ◯キ◯マンの手下のキャラクターとは一切関係ないということにしておきます。
カビカビカビ