「芽花」植物と機械の融合を表現した作品

卒業制作「芽花」

大学4年生のときに制作した卒業制作「芽花」を紹介したいと思います。
東京芸大の学部生としての最後の作品です。
もう6年も前の作品ですが、当時持っていた技術と力を使い切って制作した大作です。

「芽花」というタイトルは機械の「メカ」と植物を意味する「芽」と「花」という漢字を組み合わせて作った言葉です。

スポンサーリンク
ad1

卒業制作「芽花」

「芽花」を制作したときに苦労したことや技術的なことやコンセプトなどを書いていきます。
卒業制作「芽花」

アイデアがなかなか決まらなかった

僕が通っていた東京芸大の工芸科彫金では4年生になって半分くらい過ぎた頃から、卒制のアイデアを本格的に考え始めます。
そして、作品の構想が決まるのが早い人だと10月の初旬くらいから、遅い人でも11月の中旬くらいから作品を作り始めます。

作り始めるまでに多くの学生が苦労するのが「どんな作品を作るか決める」ということです。

何しろ3年生の間のほとんどと、4年生の前半の少しの間はずっと、彫金の基礎技法を修得するために技術の練習のための課題制作をひたすらこなし続けます。
そんな学生が、4年生の後半になっていきなり大きな作品を作らなくてはならないわけです。
それも「」の技術を主に使っている作品、ということが卒業制作作品の条件でもあります。

作品制作の経験まだまだ浅いこの時期にスムーズにアイデアを出すのはちょっと難しいですよね。
卒業制作「芽花」

これは工芸科や、技術が主題となる他の科の研究室の特殊な一面だと思うのですが、その講座の技術をしっかり活かした作品でないと単位はもらえません。

その講座の技法を使いつつ、その学生のオリジナリティのあるおもしろい作品を考える必要があるので、非常に難易度が高い試練なのです。

この「作品アイデア」の段階でつまづく学生がすごく多いのです。

僕も例に漏れず「作品アイデア」に苦戦した学生の一人でした。
「芽花」を作り始めることができたのは、11月の第2週目くらいからでした。

先生にOKを貰えるまでは家で作品の構想図を書いたり、深夜にぶつぶつ何か言いながら近所を徘徊しながら考えたり、もんもんとした日々が続きました。
同級生はもう作り始めている人もいたので、ものすごく焦りました。

趣味で作る作品と違って、自分の好きなものを作れば良いというわけではないのが辛いところです。
技術的な面での制約はもちろんのこと、アート作品と言うのは社会的に意味のあるものでないとならないとこの時から考えていたからです。
まだまだ未熟な僕にとっては、これだけの様々な条件が絡んでくると考えがまとまらず、時間がかかってしまいました。

卒業制作「芽花」

タイトルとコンセプトについて

実は作品アイデアを考えることをこんなにも苦労してしまったのは「芽花」というタイトルを先に思いついてしまったからかもしれません。
当時の僕は3年生の真ん中を過ぎた頃から始まった「作品タイトルをダジャレにしてしまう病」にかかっていました。
そんなある時、天から降りてくるかのように「芽花」というタイトルを思いついてしまったのが苦労の始まりだったのかもしれません。

タイトルが決まっているとタイトルに合わせてアイデアを考えなくてはならないために呪縛にかかったかのように、余計に上手く行きませんでした。
ずいぶん悩む時間が長かったですが、最終的には何とかデザインが決まって作り始めることが出来ました。

「芽花」は構想の当初のアイデアスケッチから、デザインはかなり変わって最終的にはこのようなメタリックな虫のようなデザインに完成しました。

メカ+(芽+花)=「芽花」というタイトルの通り、機械と植物が融合したような表現を考えた結果生まれた作品です。
卒業制作「芽花」
「芽花」にはストーリーがあります。

「芽花」は自分を成長させるための「エネルギー」を歩き回って探している機械のような生物です。
100匹以上いる「芽花」は「エネルギー」を見つけるとおしりにあるドリル状のパーツを地面に差し込みます。
そして、その場所から芽を出し、花を咲かすのです。

僕達の住んでいる世界とは全く違う異世界のような世界観の作品です。

この作品はその「現実から離れた世界観」を表現することがコンセプトです。
卒業制作「芽花」

「芽花」は言ってしまえばSFチックな物語を内包する作品です。
台座の上にジオラマ的な「芽花」の世界を作ることで鑑賞者にその世界観を感じてもらい、非日常的な感覚を生じさせることが目的です。

僕達のような現代人は「日常」というものにどっぷり浸かって生活をしています。
毎日が退屈に感じたり気晴らしをしたいとき、映画を観たりゲームをしたりするなどのエンターテイメントを求める気持ちは、現実を離れて「非日常」を味わいたいからだと思います。

そこで、芸術作品を通じてその非日常的な世界観を表現することが出来ないか、ということを主題にして制作したのがこの作品です。

日常とは違う非日常を体験する方法はいろいろありますが、アートもその中の一つです。
鑑賞者をその特殊な世界観にどれくらい引きこむことができるかで、その作品の価値が決まるのだと思います。
卒業制作「芽花」

制作工程

「芽花」を作るのは本当に大変な作業でした。
この作品を作るために使ったパーツの数は5000個以上です。

大量のパーツを一つ一つ、真鍮の棒やステンレスの棒を切ったり磨いたり穴を開けたりして作ります。
糸ノコでやヤスリなどの道具を効率良く、正確に使うために専用の器具を自作したりしました。
旋盤やボール盤などの電動の機械も、この時ほどたくさん使ったことはありません。

とにかく、一人で5000個ものパーツを作成するため工夫して出来る限り効率化して作業を行う必要がありました。

そして、たくさんのパーツが出来上がったら、そのパーツを地道に少しづつハンダ付けやネジ止めをして組み立てます。
そして最後にメッキをかけて完成です。

作業量が多い作品なのに作り始めるのが遅れてしまったので、大急ぎで制作しました。
正月も実家に道具と材料を持ち帰って、毎日作業しました。

必死で頑張ったおかげで何とか期限内に完成させることが出来ました。
卒業制作「芽花」

卒展会場の東京都美術館で展示

卒業制作展は芸大の構内と東京都美術館が主な会場です。
作品の大きさや性質などによって、違う展示場所になってしまうこともあるのですが、基本的には工芸科の学部生は東京都美術館に作品を搬入して展示を行います。

美術館の裏側から搬入するなんて経験は当時は初めてだったので楽しかったです。
卒業制作「芽花」
今年の卒展にも後輩たちの展示を観るために行ったのですが、現在の東京都美術館は改装されてずいぶんと綺麗になったと思います。
工芸科の展示スペースも以前よりもスッキリしていてちょっとうらやましかったですね。

まとめ

「芽花」は大学4年生の時の卒業制作なので6年前の作品ですが、作るのにずいぶん苦労したことをよく覚えています。

この作品は機械と植物を融合させたような表現を模索した結果生まれました。
当時持っていた力をフルに使って作ったという経験は、その後の作品制作の技術や考えに大きく影響したと思います。
卒業制作「芽花」

人によると思うのですが、「卒業制作」というのはその作品自体よりも、作品を作ったという過程がすごく大事です。
たまに卒業制作ですごい賞をもらったりして有名になってしまうような天才的な作家さんもいるのですが、普通は大学4年生という未熟な時期に世間に認めてもらえるような完成度の高い作品を作ることは出来ません。

それよりも出来上がった作品をどのように受け止めて次につなげていくかが大事だと考えています。

「芽花」を一生懸命作って卒展の会場に展示したという体験を通して得たものは、自分にとって大切な記憶となって今も残り続けています。

スポンサーリンク
ad1
ad1

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です