「GRADO SR325is」、それは選ばれしものだけが持つことを許されるヘッドホンです。
様々な困難を乗り越えたその先に待ち受けるものは全てを突き抜けるかのようなGRADOサウンドの世界です。
装着感が悪い?音が刺さる?作りがチープ?音漏れがスピーカーレベル?そんなことは全く関係ありません。
なぜならそれがGRADOだからです。
音楽を楽しむ上で何が大切なのか思い出させてくれるかのようです。
SR325isは全てを脱ぎ捨ててしまうかのような開放感にあふれるヘッドホンです。
これがGRADOのヘッドホンが変態紳士のヘッドホンと呼ばれる所以です。
GRADO SR325isのレビュー
GRADO紳士
GRADO(グラド)は1953年にジョセフ・グラド氏によって設立されてから、今日まで音響機器を作り続けているアメリカの歴史あるメーカーです。
GRADOが製造販売しているヘッドホンは、ひと目でGRADOの製品であるとわかる独特な見た目をしています。
木やアルミなどの素材を削りだして、ドライバーユニットをとりつけただけのような非常にシンプルな作りです。
その簡素な作りや、チープなバリの残っているプラスチッキーなパーツがそのまま使われていることから、工業製品ではなく「民芸品」であると揶揄されることもあります。
GRADOのオーバーイヤーヘッドホンは全て開放型です。
開放型なので当然のことながら遮音性は皆無で音漏れします。
しかし、その音漏れの量は半端ではありません。
普通に音楽を聞いているだけなのに小型のスピーカーの代わりに使えるのではないかと思うくらいの音が部屋全体に聞こえてしまいます。
また、装着感も一部の機種を除いて非常に悪いとされています。
GRADOのヘッドホンのヘッドバンドの部分には特殊な薄い金属板が入っていて、それを手でぐいぐい曲げて側圧や微妙な角度を調整することが出来ます。
少々強引で原始的な方法ですが、ヘッドホンの入っていた箱に同梱されている説明書にもそうするように書いてあります。
ヘッドバンドを使う人に合わせて曲げることで、悪いとされる装着感をある程度改善することが出来ます。
GRADOのヘッドホンは総じて上記のようなネガティブな特徴があります。
このような欠点をものともせずに、GRADOを愛用している人達を(主にインターネット上では)「変態紳士」と呼びます。
全裸にネクタイにGRADO、これが変態紳士の正装です。
「変態紳士」のヘッドホンと呼ばれるようになったのはインターネット上で誰かがネタでそういうこと言ったのが広まってしまった結果だと思います。
ですが、実際に「GRADO紳士」になってみるとあながち冗談でもないのではないか?と思えてくる自分が怖いです。
GRADOを使う上での様々な障害を乗り越えた先にあるのは、そんな欠点が些細なことと思えてくるような、他のヘッドホンではけして味わうことの出来ないGRADOサウンドでした。
裸ネクタイが正装というのもわかるくらいの全てを解き放つような開放的な音です。
そのチープな作りからはとうてい想像することはできませんが、一度GRADOサウンドにはまってしまうと音以外の全てを犠牲にしても良いと思えるくらいです。
最もGRADOらしいと言われるヘッドホン
SR325isはそんなGRADOのヘッドホンの中でも最もGRADOらしいサウンドを奏でる機種だと言われています。
その音は一言で言うならば「脳を突き抜けるような音」です。
非常にアタック感が強くスピードの感じられる、一切篭もることのない抜けの良い音です。
空間は狭く感じられますが、その分密度が高く、全ての音がストレートに自分めがけて飛んでくるような感覚になります。
低音の量は少なめです。
高音も曲によってはキンキンと刺さる場合があります。
しかし、そんな細かいことはどうでも良くなるようなSR325isでしか味わうことの出来ない魅力があります。
強制的に気分を盛り上げてくれるような、独特の空気感と勢いを感じることができる、不思議な力のある音だと思います。
エージングで化ける
「SR325isはロックに合う」とか「ロック専用のヘッドホン」と言われることがあります。
確かに3年ほど前に購入した当初は、激しいロック系の音楽以外はパッとしない印象で、特にしっとりした緩やかなテンポの曲は空間の伸びやかさも感じることができなくて、良さがわかりませんでした。
しかし、買ってから普通に使っていくと、音が暴れている印象だったのが徐々に落ち着いていくのがはっきりわかりました。
一ヶ月くらい使い続けた頃だったでしょうか、最終的にはどんな曲でも合うのではないか?と思えるくらいにまとまり感のある音に変化しました。
箱から出したばかりの頃の不安定さがなくなり、しっかりした土台が形成されたようにも感じました。
ヘッドホンを使い込んで慣らし運転をすることをエージングと言うのですが、SR325isは特にエージングの効果を感じることができる機種だと思います。
SR325isが入っていた土産物のお菓子の箱よりも簡素な作りの紙箱に添付してあった説明書にも「エージングをしないとこのヘッドホンの本領は発揮できないよ〜」という内容の記述があります。
GRADOのヘッドホンはメーカー公式のエージング必須なヘッドホンということです。
しばらく鳴らしこんで変化が落ち着いた後のSR325isはもやっとした不安定な感じがなくなり、整った音空間を作り出すことができるようになりました。
その結果、ある程度どんなジャンルの曲もいい感じに聞くことができるヘッドホンに変化しました。
自然な音
いろんな人に全力で否定されそうですがSR325isは個人的には「自然な音」のヘッドホンだと思います。
言葉では説明しづらいですが、「自然な音」とはフラットな鳴り方とかそういうことではなく、ヘッドホンと耳との境をなくしたような自然に耳に入ってくるような音という意味です。
以前、MacにUSB接続したヘッドホンアンプとSR325isで深夜に音楽を聞こうとしたときの出来事です。
音楽を鳴らし始めても何故か音量が小さかったのです。
「あれ〜おかしいなあ」とMacの音楽再生ソフトの音量をぐいっと上げたら、すでに眠りに入っていたうちの奥さんが飛び起きてきました。
そこでやっと気づいたのですが、サウンドデバイスの設定がうまく行ってなくて、音楽はヘッドホンからでなくMacの内蔵スピーカーから出ていたのでした。
爆音です。
その時は起こしてしまい、うちの奥さんには悪いことをしてしまいました。
アホな話ですが、それに気づかないくらい、普段耳で聞こえている音とSR325isの音は似ていました。
このことから、ヘッドホンやイヤホン特有の脳内で鳴っているような感覚が少ないと言い換えることも出来ます。
故に、SR325isは非常に自然な音だと言えるのではないかと思いました。
その自然な音の秘密はGRADOのヘッドホンの特徴である独特な形状にあるのではないのかと思います。
SR325isは他の追随を許さない圧倒的な音漏れがありますが、試しに音漏れを防ぐようにイヤーカップ背面の網になっている部分を手のひらで塞ぐと、途端に安っちいラジオのような音になってしまいます。
他にもいくつかSR325isと同じ、開放型のヘッドホンを所有していますが、手のひらでハウジングを塞いでも他のメーカーのヘッドホンにはこのような大きな変化をするものはありません。
この「音漏れ」がいかにGRADOサウンドにとって重要な役割をしているのかがよくわかります。
女性ボーカルが良い!
SE325isの演出する音空間は非常に狭いですが、その分前後関係ははっきりしているように感じます。
そのおかげで曲全体のバランスが破綻することなく、絶妙なバランス感を保ちつつ大抵の曲はいい感じに鳴らしてくれます。
しかしその、空間の位置取りは独特で、全ての音が近めです。
遠いものは少し遠く、近いものはものすごく近くで音が鳴っているように感じます。
特に女性ボーカルの近さはすごいです。
自分の顔から10cm位の距離で歌っているかのようです。
すごくリアルで癖になりそうな女性ボーカルの表現だと思います。
SR325isは、ある高音帯域を越えた時に「アルゼンチンババア音」という唯一無二の音が出ると(主に某掲示板では)言われています。
意味は全くわかりませんが、SR325isの音を説明する上で、これ以上ない表現なのではないかと思います。
同名の「アルゼンチンババア」という映画があるのですが、まだ見たことないのでその映画と関係があるのかどうかもわかりません。
「南米在住の老婦人の金切り声のような音」を想像してしまう言葉です。
この「アルゼンチンババア音」は苦手な人もいるようですが、ハマればこのヘッドホンさえあれば生きていける!と思えるくらいの脳汁がジュンジュワーッと出てくるような快感があります。
SR325isは、アルゼンチンババア音と一切篭もることなくスカッと勢い良く突き抜けるかのような音と相まって、ロック調の女性ボーカル曲との相性は抜群です。
どこまでも伸びる、伸びちゃいけないところまで伸びてしまうこともある高音域は、時には刺さるように感じることもあります。
しかし、これさえ克服できれば多少悪い装着感も気にすることなく、ずっと音楽を聞いていたい!という気持ちにさせてくれます。
GRADOホンの装着感には個人差がある
装着感が良くないと書いてしまいましたが、それは一般論です。
運が良いのか悪いのか、このヘッドホンを愛用している僕自身はほとんど頭部や耳が痛くなることなく、何時間でもSR325isを装着して音楽を楽しむことが出来ます。
ヘッドバンドの調整がうまく行ったのか、たまたま耳や頭の形がGRADOに合っている形状だったのか定かではありませんが、他社の多くのヘッドホンよりも快適な装着感であるように思えます。
GRADOのヘッドホンはSR325isの他にSR60iも持っていますが、両方とも特に装着感に不満はありません。
SR325isのイヤーパッドは少しザラザラした固めのスポンジのような素材で出来ています。
それが側頭部に当たって不快に感じる人もいるようです。
そんな細かいことは関係ねえだよ!と言いたいところですが、GRADOのヘッドホンを購入することを考える際は、ぜひ一度試着することをおすすめします。
極太ケーブル
SR325isのケーブルは取り回しのことなど一切考えていないかのような極太です。
ノギスで太さを測ってみると10.6㎜もありました。
こういう、音質だけを考えているかのような太くて硬いケーブルは安心感があって好きですが、使う上では少し不便な部分もあります。
SR325isはポータブル用のヘッドホンアンプやiPodに直挿しでも良さが十分わかる、能率の良い鳴らしやすいヘッドホンです。
しかし、SR325isを接続するためのプラグは標準プラグなので、そのままではiPodや多くのポータブルヘッドホンアンプには挿すことが出来ません。
そのようなポータブル機器に接続するときは変換プラグを使ってミニプラグに変換して接続するのが一般的です。
しかし、直径1センチメートルを超える太くて硬いケーブルは接続部分に負担が掛かりそうで怖いです。
そこで、写真のような10センチ位の標準ジャック→ミニプラグの変換ケーブルを使うと負荷がかかりにくくなります。
写真のものはゼンハイザー(SENNHEISER)の製品ですが、GRADOの純正品も存在しています。
ゼンハイザーの変換ケーブルも問題なく使用することが出来ます。
もちろん、そのまま標準プラグで接続できる良質なヘッドホンアンプにつなげばそれだけすごい音を奏でてくれるヘッドホンですが、もしミニジャックしかない機器に接続したいときはケーブルの太さと重さに注意する必要があります。
まとめ
SR325isは非常に端的にGRADOサウンドの魅力を表現しているヘッドホンです。
聞いていると、多少気分が落ち込んでいたとしてもテンションが上って楽しくなってきます。
へたな栄養ドリンクよりもよっぽど元気になるのではないでしょうか。
向いている曲はありますが、僕の中では基本的にはどんなジャンルの曲も違和感なくこのヘッドホンで聞けてしまうと思ってしまうくらいのお気に入りのヘッドホンです。
つい音量を上げて爆音で音楽を聞きたくなってしまうのですが、あまり度が過ぎると難聴になってしまうおそれがあるので気をつけたいところです。
ヘッドホンで音楽を聞いていることを忘れさせてくれるような、篭もりとは無縁の開放的なサウンドはSR325is以外のヘッドホンでは味わうことは出来ないでしょう。
GRADOサウンドは衣服を全て取り払って音楽鑑賞したい!という気分にさせてくれます。
様々な困難を乗り越えることができる、変態紳士による変態紳士のためのヘッドホンだと思います。
そんな意味でも、音漏れの激しさからも自分の家の中だけで楽しむのが紳士のルールです。
今までに1回だけ、GS1000iというGRADOホンの中でもとびっきり変態なヘッドホンを、外で装着している紳士を見かけたことがありますが、それは例外中の例外です。
東京は本当に怖い街だと思いました。
紳士たるものマナーを守って(正装で)思い切り楽しみたいですね。