先週、東京都現代美術館で開催されている企画展、「ミッション[宇宙×芸術]-コスモロジーを超えて」を観てきました。
「ミッション[宇宙×芸術]-コスモロジーを超えて」東京都現代美術館
この展示は天文的な意味での宇宙と、アーティストに内在する宇宙という、2つの意味での宇宙をテーマにした展示でした。
展示されている作品や資料は、実際のモチーフとしての宇宙をテーマにしたものと、それとは関係なく内的な宇宙の表現や、宇宙的な表現をしたものが入り乱れていて、非常に見応えのある展覧会でした。
アートというのはほとんど全てが、アーティストの内側に存在する「宇宙」を放出する行為と言っても過言ではありません。
そんな意味で非常に考えさせられる展示でもありました。
「ミッション[宇宙×芸術]-コスモロジーを超えて」を観てきて考えた事を中心に書いていきたいと思います。
「ミッション[宇宙×芸術]-コスモロジーを超えて」を観てきた感想
東京都現代美術館
東京都現代美術館は、東京の中心的な繁華街である新宿や渋谷や池袋からは少し離れた場所、東京メトロや都営大江戸線の清澄白河駅から少し歩いた場所にあります。
個人的には都会の雑踏をかき分けながら美術館まで行く必要がなくて、館内も人が少なめなので、好きな美術館の一つです。
現代美術館という名前の通りに現代美術に関連する展示も積極的に行っているのも良いですよね。
山梨県に引っ越してからは、2年以上この美術館には行っていなかったのですが、今回は本当に久しぶりの訪問となりました。
宇宙をテーマにした展覧会
「ミッション[宇宙×芸術]-コスモロジーを超えて」は非常に噛み砕いて言ってしまえば「宇宙」をテーマにした展示です。
宇宙と言うのは、普通に天文的な意味での宇宙のことを指すことが多いです。
しかし、アートに関して「宇宙」という言う場合はアーティストの内側に存在する「内的宇宙」を意味する場合があります。
この展覧会では、この2つの意味での宇宙の側面から見た作品で構成された展示となっていました。
つまり、ロケットや太陽系の惑星のことなどの資料的な展示と、アーティストの考える宇宙を表現した作品の2種類が展示されています。
純粋な資料的な意味での展示もあったのですが、アート作品の展示に関しても天文的な意味での宇宙と、「内的宇宙」をテーマにした作品がありました。
非常にバリエーションに富んでいたというのが、この展示を観てきた最大の感想です。
この2つの意味の宇宙は本来、全くかけ離れた存在ではあると思うのですが、あえて一つの展覧会でまとめて展示したというのはある意味おもしろい試みではあると思います。
まさに「宇宙×芸術」です。
アーティストにとっての宇宙とは
作品を作るアーティストにとっての「宇宙」とはどのような存在なのか、またどのように考えてそれを表現すれば良いのかという点について考えてみたいと思います。
内的宇宙
「内的宇宙」と言うのは、少し乱暴な解釈をするならば、人間の頭の中身のことを指します。
日常的に感じていること、どんなことに興味があって、何を考えて行動をしているか?
これら全てが、人間の内側に存在している「宇宙」に起因しているはずです。
アーティストが内包している宇宙である「内的宇宙」と言うのは、アーティストにとっては表現する動機そのものです。
アーティストが作品を制作する際には、その作品を作った動機が存在するはずです。
芸術作品、特に現代美術の作品においては普段その人が感じていたり、問題だと思っているものに対しての問いかけだったり、問題の提起などが、制作の動機や目的である場合が多いです。
つまり「内的宇宙」と言うのはアーティストにとっては、表現する上での格好の題材でもあり、必要不可欠なものでもあります。
内的宇宙の存在なくしては、作品というものは制作することも出来ないし、制作する理由も存在しないということになります。
内的宇宙を成長させることの重要性
より広がりのある「内的宇宙」を持っているアーティストの作品は奥行の深い作品となる場合も多いです。
アーティストとして自分の内的宇宙に起因する作品を作り、それを展覧会などで鑑賞者に見せる場合、共感と同時に鑑賞者の予想外の価値観を提案する事ができれば、感動を与えることができるはずだからです。
良い意味での驚きを与えるためには、作品を観てくれる人よりもより深い内的宇宙を持っている必要があります。
つまり、優れた作品を作る事ができるアーティストで居続けるためには、自身の「内的宇宙」の成長も常に意識し続ける事が重要なのです。
常に新しい価値観を提供するアーティストでないと、お客さんに飽きられてしまいますからね。
変わらずに良い作品を作り続けるためには、自分の内側に広がっている宇宙の大きさを大きく成長させ続ける事がものすごく大事です。
最も効果的に表現する手段を考える
仮に広大な内的宇宙を持っていたとしても、それを放出する方法が、「効果的」でなくては良い作品は作ることは出来ません。
「効果的」と言うのは自分の考えを正確かつ、センスよく他者に伝えることができるということです。
作品を作るという行為は、自分の考えを他者に伝えるための一つの手段に過ぎません。
そして、その考えている事をしっかりと伝えることができるということも、優れた作品の条件の一つです。
これが効果的でないと「なんかすごいけどよくわからない」という現代美術に対して一般の人が思っているイメージそのものになってしまうのです。
もちろん、ひと目見ただけでその作品のコンセプトが伝わる必要もないと思うのですが、説明文を読んでも納得できないくらいのレベルだと問題があるかもしれません。
あまりにもわかりやす過ぎる作品は内容が浅く見られてしまう場合も多いので、この件に関してはバランスの良さが最も重要だと思います。
センスよく自分の考えを伝えるという能力が、アーティストには必要とされているということです。
アーティストと一般人の違い
アーティストと一般の人との違いは、内的宇宙を放出する手段を心得ているかどうかです。
作品を普段作ったり表現したりしない人でも、非常に深い内的宇宙を持っている人はたくさんいると思います。
しかし、そういう人であっても、作品を作るということは出来ませんよね。
アーティストというのは、表現する手段を練習したり研究したりを続けて、効果的に作品を通して他者に自分の考えを伝える技術を持っている人達の事を言います。
だから、極端な事を言えば、技術があれば浅い内的宇宙しか持っていなくても、それなりの作品を作ることは出来ます。
表現の技術が上手く、正確に相手に自分の考えを伝えることができるというのは、それだけでも十分な武器となりえるのです。
もちろん、これもバランスが重要で、作品制作の技術だけすごくても、それは突き詰めてしまえば表面的なことに過ぎません。
本当にレベルの高い作品を作るためには効率よく自分の思っている事を表現することと、自分の内面の充実も忘れないようにと、非常に多くの要素を意識して作品制作を行う必要があるのです。
内的宇宙と外的宇宙の関係
ここまでは人間の内側に存在する「内的宇宙」の話を書きました。
しかし、その内的宇宙に関連して「外的宇宙」というものも存在すると僕は考えています。
「外的宇宙」という言葉はインターネットで調べても正確な意味はよく分からなかったのですが、「内的宇宙」が人間の内側に存在しているものとするならば、「外的宇宙」とは人間の外側に広がっている宇宙のことだと僕は解釈しています。
どこに住んでいるのか?どの時代に生きているのか?家族構成は?そんな仕事をしているか?
つまり、その人を取り巻く環境そのものを指す言葉だと思います。
「内的宇宙」というものが作品制作において重要だということは前述しましたが、「外的宇宙」という存在も直接的ではありませんが大事な要素だと思います。
なぜなら「外的宇宙」はその人の「内的宇宙」を形成するための要素だからです。
「内的宇宙」は「外的宇宙」によって構成されていると言い換えても良いかもしれません。
この2つは互いに相関しあっていて、片方が変化するともう片方もそれに合わせて変化する可能性が高いです。
例えば、引っ越しをして田舎から都会に引っ越したらその人を取り巻いている環境が変化しますよね。
また、それに準じてその人も垢抜けて性格や価値観も変わってしまう場合が多いです。
故に「外的宇宙」と「内的宇宙」が複雑に絡み合いながら、2つの性質や大きさが変化し続けていくということが言えます。
外的宇宙→内的宇宙→作品
アーティストが作品を作る際には、直接的にはその人の持っている「内的宇宙」から作品が生み出されます。
「外的宇宙」が直接的に作品の動機になることはほぼありません。
なぜなら、どのような外的な要因もそのアーティストの中で一度フィルターに通されて、消化され、その人の作品となって表現されるはずだからです。
どう考えてもその人の環境から生まれたように思える作品であっても、「外的宇宙」に起因して「内的宇宙」が変化してそこから作品を生み出すのです。
どのような作品であっても「そのアーティストの視点から見た解釈」というのは絶対的な要素として存在します。
したがって、作品の内容に直接的に影響するのは「内的宇宙」で、「外的宇宙」とは「内的宇宙」の構成に最も大きな影響を与える要素という位置づけとなっています。
作品という物は、そのアーティストを取り巻く環境から連鎖的に作用して、生み出されるものということです。
アートというものは、「外的宇宙」をそのまま放出して作品とするのではなく、「内的宇宙」というフィルターを通して生み出されるものだと思います。
アーティストも人間ですから、作品というのはそれぞれの視点から見たモチーフが表現されているものですから、独自性があるのが当然です。
そうして生み出される作品はアーティストが持っている考えを具現化したものなので、作品を見るということは自分が考えもしなかった考えに出会ったりできる可能性がある行為ということです。
だから、アートというものはおもしろいのだと思います。
まとめ
宇宙というものは古来から、表現のための重要なモチーフの一つでした。
宇宙に存在している星や太陽が信仰の対象であったり、それを造形したと思われる作品が遺物としてたくさん残っています。
宇宙という存在は現代の科学でも解明されていないことが多く、未知のロマンを感じます。
故に、今も多くのアーティストが宇宙を題材にしたり、利用して作品を制作しているのでしょう。
また、アーティストにとって最も重要なのは内的宇宙の存在です。
内的宇宙の充実がなくては作品を作ることは出来ないからです。
東京都現美術館で開催中の「ミッション[宇宙×芸術]-コスモロジーを超えて」では、これらの「宇宙」と名前のついた要素をひとまとめにしたような展示内容となっていました。
天文的な意味での宇宙をテーマにした作品や資料もあれば、宇宙的な作品もあったりして、非常に興味深い展示だったと思います。
展示自体はかなり楽しく観させていただいたのですが、個人的にはそれ以上にアートと宇宙の関係について考えさせられる展示であったように感じました。
会期は8月31日(日)までなので、興味がある人は現代美術館まで行ってみると良いと思います。