約3年前に制作した「脱培養」という作品について書いていきたいと思います。
この作品はどこかの実験室でシャーレの中で培養されている謎の生物がモチーフです。
この生物は自由な世界に憧れていて、狭い世界からの脱出をしようとしています。
しかし、その培養液で満たされたシャーレの中は生暖かく居心地の良い世界でもあります。
故に、この生き物たちは自由な世界に憧れつつ抜け出すことが出来ないのです。
「脱培養」
環境への小さな不満
自分の所属している環境、例えば会社であったり、学校であったり、家庭であったりします。
そんな、自分をおかれている環境に満足している人もいれば、そうでない人も人も居るはずです。
毎日の生活の中で、大小様々な不満を抱えて生きている人がほとんどだと思います。
そんな不満を抱えているからこそ、自分の知らない世界への興味は誰しもが抱いているはずです。
そこから脱却して、別の環境に移ることができたら、もしかしたら今抱えている不安や不満が解消できるかもしれないからです。
居心地の良い世界
なぜなら、環境と言うものは長くそこに居続けると、多少の不満があったとしても居心地が良いように感じてしまうからなのです。
毎日のように仕事や家庭での不満の愚痴を言っているにも関わらず、その世界に居続けるのは、生暖かい培養液で満たされたような世界だからです。
そこから脱却すればいろんなことが解決するかもしれないのに、なかなか実行することが出来ないのです。
そのままの状態で居続けることは非常に不健康です。
それにもかかわらず、多くの人はそれを実行することが出来ないのです。
シャーレから抜け出せない生き物
「脱培養」はそのような多くの人が不満を持ちながらもその環境から脱出することを選択しない、ということを表現した作品です。
僕自身も長い間自分の置かれた環境に不満を持ちながらも長い期間に渡ってそれを解決しようとしなかった一人です。
人間に限らず生き物は、目先の楽な選択をしてしまうものなのです。
楽な選択をし続けることで、なんとなく日々を過ごしていくことは可能です。
しかし、それが自分の長い人生にとって最良の選択であるのかは別の話です。
自分の環境を変化させるには、非常に多くのパワーと時間が必要です。
自力でシャーレの蓋をこじ開けるくらいの力がないとその世界から抜け出すことが出来ないのです。
「脱培養」は抜けだそうとしつつもなかなか居心地の良い世界から脱出できない、もしくはしようとしない自分自身を表して制作した作品です。
まとめ
「脱培養」はコンセプトもそうですが、自分の中では新しい作り方で制作した作品です。
シャーレに樹脂を流し込んだり、木材を削りだしたり、金属を加工したりといろいろな技法を混合させて制作しました。
実験室のような空間を演出することをイメージして作ったこの作品は、当時の自分にとってはチャレンジでした。
人は適当に流されるままにいると、自分の楽な選択肢をとり続けてしまいがちです。
この作品はそんな自分への自戒の意味も込めて制作した作品です。