大学院1年生の頃に作った「Hatchy」という作品を紹介していきたいと思います。
鉢植えだから「Hatchy(ハッチー)」です。
植物と、動物的な生き物の融合をテーマにした作品の一つです。
サボテンのような多肉植物がモチーフです。
「Hatchy」
金属と植木鉢、砂を使った作品
作品の本体部分は、彫金の技術を駆使して、銅や真鍮などの金属で作りました。
表面のテクスチャーは自分で考えて作った特殊な鏨を使って、地道にコツコツと少しづつ仕上げました。
本体部分が出来上がると、買ってきた植木鉢にセットして、隙間を砂で埋めました。
工業製品である植木鉢と、作品本体であるサボテンのような生き物を組み合わせることで、より存在感を強調することをが出来たように思います。
他のバージョン
「Hatchy」は全部で4体作り、展覧会にて展示をしました。
これは、中でも大きいサイズで作った「Hatchy」です。
「Hatchy」シリーズの中では制作した時期が最も後です。
他の3つのサイズは高さが20㎝くらいなのに対して、この大きいサイズのバージョンは30㎝くらいの高さです。
このような高さが30㎝というサイズの作品を制作したことがなかったので、わざと大きめに設計しました。
後ろから見ると本当にサボテンみたいです。
同じテーマでいくつもバージョンを変えて作ることで、作品の完成度やデザインのバリエーションを増やすことが狙いです。
制作の動機
僕は大学院生の頃は東京芸大の彫金研究室という場所に所属していました。
その当時の僕は、金属と異素材を組み合わせた作品を制作することに情熱を捧げていました。
いろんなどうでもよいものを東急ハンズに行って買いあさっていた時期でもあります。
そんな中で見つけた、「植木鉢」と言う既成品の素材を使うことを思いついて制作したのが「Hatchy」です。
「Hatchy」というネーミングは、なんか可愛いかな?と思ってつけた名前をそのままタイトルにしてしまいました。
人間社会とのリンクがテーマ
植木鉢に植え付けられた「Hatchy」は植物でもあり動物でもあります。
動物でもあるので多少動くこともできるはずですが、砂に植えつけられて自由に動き回ることは出来ません。
しかし、本人たちは「動けない」という不自由に対してそこまで不満には思っていないのか、何を考えているのかわからないような表情をしているように見えます。
僕達人間は不自由であるということに対して、それが表面化するとものすごい勢いで反発することがあります。
それは、労働環境の改善の要求であったり、自分のパートナーへの不満だったりすると思います。
しかし、自分の置かれている状況に不満があったとしても、根本的に自分の所属している社会から逸脱しようとする人は少ないはずです。
僕達人間の持っている不満を根本的に解決するためには、自分の置かれている世界を一度ぶち壊すしかありません。
しかし、それには当然大きなリスクがあります。
それをする人がほとんどいないのは、大きな社会の一員として生活をするほうが、安全で居心地が良いからです。
「Hatchy」が植え付けられている植木鉢の中の世界は、人間の「社会」を具現化したものです。
多少の不満があっても、面倒を見てくれる人がいて楽ちんだということを知っているのです。
「Hatchy」は人間の社会的な不満と、それに対してどのように行動するのかということを、植木鉢に植え付けられたサボテンのような生き物の姿を借りて表現した作品です。
まとめ
「Hatchy」は今考えると、けっこう適当にデザインを考えたような作品ですが、適度にキモかわいい雰囲気に仕上がったので、わりと気に入っています。
人間の置かれている状況と、鉢植えの生き物という架空の存在をリンクさせて考えた作品です。
この作品は実験的な意味合いも強い作品ですが、この作品を作ることで、制作の方向性がある程度固まった感じがします。
僕にとって「Hatchy」シリーズは作品制作に対してのイメージを決定づけた作品の一つです。