昔の作品の紹介です。
大学の課題制作で作った「ムシリング」という作品です。
デザインの元になったモチーフは黒光りして素早い動きの「あれ」です。
普段はあまり作らないジュエリー(指輪)です。
自分で研磨した瑪瑙(めのう)を石留めしてあります。
「ムシリング」
大学3年生の時の作品
僕は大学生時代を東京芸大工芸科の彫金研究室というところで過ごしました。
2年生の中盤を過ぎた頃に講座選択があって、それから彫金に所属して3年生の最後のあたりまでずっと基礎的な技法の習得をするために課題制作をこなし続けます。
「ムシリング」はそんな彫金一色だった3年生の時の「ジュエリー」の授業の時の作品です。
「ジュエリーが作れる」という知識と技術があるというのも彫金の基礎を学ぶ上で必要なことです。
「彫金」と「ジュエリー」は切っても切り離せない関係です。
芸大の彫金を卒業してジュエリーの作家として活躍している人はたくさんいます。
逆に僕のようにジュエリーを全く作らないで、関係ない作品を作っている人は少数派だと思います。
石の研磨
この授業のおもしろいところは外部から講師を招いて「石」の研磨の勉強もできるところです。
これは、その時に練習で作ったカボションカットの石です。
「カボション」とは縦に輪切りにした時にかまぼこみたいな形の断面の形状になる宝石の研磨方法のことです。
瑪瑙やラピスラズリやルチルクォーツなどの半貴石をたくさん研磨して勉強ができる楽しい授業でした。
ただ、僕の彫金の同級生は自分を含めて5人いるのですが、全員が石の研磨に夢中になりすぎて本業の彫金の課題であるジュエリーの制作がおろそかになってしまったせいで問題になって、次の年から研磨する石は2つまで!というような条件がついてしまいました。
(現在は1つだけになっているそうです)
後輩のみんなには悪いことをしたなあと反省しています。
「ムシリング」という名前だけど…
押入れの中から「ムシリング」を引っ張りだしてきて、指にはめてみました。
僕の指だと左手の薬指にはめるとサイズがピッタリです。
「ムシリング」には瑪瑙という石を細長いカボションに研磨し、取り付けて虫っぽい感じを表現しています。
たくさん石を研磨した中にこの瑪瑙があって、この石をずっと見ていたら模様と色が家に突然現れる茶色かったり黒かったりする「あれ」に似てることに気づいて、このデザインを思いつきました。
タイトルも本当は「ゴ◯ブリング」にしたかったのですが、さすがにちょっと直球過ぎてドン引きされるかなあと思って「ムシリング」というタイトルにしました。
指に「あれ」がとまっているような感じのイメージですね。
あまりリアルに想像するとぞっとします。
ちなみに僕は「あれ」がものすごく苦手で、「あれ」を見ると心拍数が急激に上昇して全身がカタカタ震えてしまいます。
僕がそんな調子なので、万が一「あれ」が家に出現したら奥さんに処理してもらっています。
幸い今住んでいる山梨では「あれ」は少なくて助かっているのですが、東京に住んでいた頃は「あれ」が多くて、網戸の隙間から突然「あれ」が飛び込んできたりすることもありました。
その時「あれ」が飛ぶということ初めて知りました。
SILVER925
「ムシリング」は自分で研磨した「瑪瑙」と「925」と呼ばれる銀と銅の合金で作られています。
銀:銅が925:75の割合で混ざっている合金なので「925」と言います。
別名「スターリングシルバー」とも言うことがあります。
何も混ぜてない純銀は非常に柔らかく加工も容易なのですが、ちょっとどこかに引っ掛けたりしただけでグニャッと曲がってしまうことがあります。
そこで強度が高く曲がったりキズがついたりして破損することが少ない「925」がシルバーのアクセサリーの素材として用いられることが多いのです。
「925」はちょっと割高ですが東急ハンズとかでも板材や線材を販売しているのを見かけた記憶があります。
この大学3年生の時のジュエリーの授業では、ジュエリーの基礎から勉強するために自分で銀と銅を溶かして「925」を作って制作しました。
まとめ
大嫌いな「あれ」をイメージして制作してしまった「ムシリング」は自分で研磨した石を取り付けて作った、僕の数少ないジュエリーの作品の一つです。
今、手にとってまじまじと観察すると技術的な完成度が低くて、人に見せるのはちょっと恥ずかしいですね。
大学3年生の当時としては頑張って作った方だと思います。
ジュエリーは彫金を勉強する人間にとっては避けては通れないものです。
人が身につけることによって完成するジュエリーの作品は実際に作ってみるととても勉強になります。
作品単体ではなく人間が装着した時にどのように見えるかが大事だからです。
彫刻や絵画のような純粋芸術作品とジュエリーが大きく違うのはそういうところだと思います。
8年も前の学生時代の作品ですが「ムシリング」も印象に強く残っている作品の一つです。