過去の練習作品なのですが、ちょっと変わった作品を紹介します。
厚さ1㎜の銅板を彫金の「打ち出し」という技法で加工して制作した「ボディビルダー」です。
写真だとわかりにくいかもしれないですが、打ち出しでレリーフを作って額縁に収めた作品です。
大学3年生の時の課題制作です。
本当はあまり良いことではないのですが、モチーフの元になったボディビルダーの写真はインターネット上で見つけたものです。
習作なので、まあいいかな…とは思いますけどね。
作品のサイズは縦40㎝×横30㎝くらいだったと思います。
【彫金】「ボディビルダー」の打ち出し
打ち出しとは
彫金には様々な技法があるのですが、「ボディビルダー」を題材にしたこの作品は、その中の一つである「打ち出し」という技法で作った練習作品です。
「打ち出し」とは一枚の1㎜~1.5㎜くらいの厚みの銅板を金槌とで鏨(たがね)で叩いて、レリーフのような半立体の作品を作るための技術です。
これが打ち出し用の鏨と金鎚(おたふく鎚)です。
鏨は彫金道具のお店などで買ってきたばかりのときは、ただの鉄の棒の状態です。
そのままだと使うことが出来ないので、先端の部分を自分の使いやすい形にヤスリで削って加工してから使います。
2年生の時にヤスリを使う練習も兼ねて、決められた形の鏨を50本くらい作ります。
その後も必要に応じて鏨を作り足していくので、一人で100本以上鏨を持っている学生も多いはずです。
「銅」という金属は不思議なもので、手間ひまかけて加工してあげるといくらでも伸びます。
この作品は厚さが1㎜の銅板でできているのですが、元々は平らな状態の銅板が破れたりすることなく、一番高いところで2㎝くらい打ち出されています。
市販の「額縁」だと調度よいサイズのものがなかったので、木材を買ってきて自分で加工して塗装して額を作りました。
打ち出しのおもしろいところは金属の板を素材にして絵画的な表現ができるというところです。
拡大すると鏨で叩いた跡が見えてきます。
この作品はそんなに出来は良くないですが、数えきれないほどの回数、コツコツと鏨と金鎚で叩いてようやくここまで仕上げることが出来ました。
デザインのチェック
この作品は大学3年生の時に「打ち出し」の課題で作った作品です。
ちょっと話が飛ぶのですが、芸大の彫金研究室では課題制作のたびに教授やその他の教員が学生のデザイン画をチェックするという、学生にとっては試練のようなイベントがあります。
彫金研究室では、2年生〜3年生の間はまず技術の習得をすることを目的に練習課題をこなさなくてはなりません。
なぜ、デザインのチェックがあるかというと、学生が考えたデザインがその課題の本題である「技法」を修得するために適しているかをみるためです。
学生によっては、なかなか先生にOKをもらえず1週間くらい作り始めることが出来ない人もいます。
僕も大学卒業後は芸大の彫金で教員をやっていたからよく分かるのですが、これはしかたのないことだと思います。
学生の課題制作のデザイン画を見せてもらうと「この課題でこれはちょっと…」ということがよくありました。
これは工芸科特有のものだと思うのですが、課題制作の前にはちょっとした面接試験があると思ってもらえれば良いと思います。
もちろん、僕が学生の時も同じく、新しい課題制作が始まるたびにデザインチェックがありました。
ここで、合格できないと制作を始めることが出来ないから皆必死でアイデアを考えます。
僕はこの打ち出しの課題で何を作るか発表するときに、インターネットで検索して見つけた「スキンヘッドで人間離れしたマッチョの黒人男性の後ろ姿」の写真とその写真を元にしたデッサンを持っていったわけです。
ここまで書くとわかってもらえると思うのですが、この時は教授に何を言われるかと思ってものすごくドキドキしました。
何しろ、同級生は「動物」とか「自動車」とかしっかりまじめにすてきなデザインの絵を描いてきていたからです。
「君はふざけてるのかね?」みたいなことを言われることを覚悟しました。
が、一発合格でした。
今でも、この時はよく大丈夫だったなあと思います。
なんでマッチョとか選んじゃったのか
無事、教授のお墨付きをもらった「ボディビルダー」の打ち出しですが、なぜこんなマッチョマンを作ろうかと思ったかというとちゃんと理由があります。
これは作品のおしりの部分を拡大した画像です。
作品の写真を見ただけだとわからないと思いますが、元の写真で彼は「ピンクのパンツ」をはいていました。
異常なほど盛り上がったお尻の筋肉に食い込んだハデなピンクのパンツです。
作品は銅板の茶色っぽい色が一色なので表現できなくて残念だったのですが、すごくおしゃれパンツです。
この作品は薬品を使い、銅板を「硫化」させて黒っぽい色に仕上げてあります。
元の写真はスキンヘッドの黒人男性だったので、銅板の硫化仕上げの色はリアルな筋肉の表現にマッチしていただけにとても残念です。
というわけで、写真の上からiPadのお絵描きアプリでピンク色に塗ってみました。
彼のハイセンスな雰囲気が伝わってくるかと思います。
画像を「ボディビルダー」という言葉で検索した時にこの人の画像を見つけてしまい、なぜかピンときてしまいました。
ちなみに先ほど同じように画像検索してみたのですが、同じ画像は見つけることは出来ませんでした。
8年も前に見つけた画像なので残ってなくても仕方ないですね。
人間とは思えないようなすごすぎる筋肉と、ピンクパンツ、これがこのモチーフを選んだ理由です。
まとめ
「打ち出し」は本来、レリーフのような平面的な作品の制作に使うことが多いのですが、立体作品に応用することも出来ます。
僕は立体的な作品を作ることが多いのですが、この時学んだ打ち出しの技術は、その後大学院を卒業するまでずっと使い続けました。
たった1㎜ほどの厚みの銅板で半立体を表現することができる「打ち出し」は、幅広い表現の可能な技法です。
ちょっと変わったモチーフを選んで制作した習作ですが、その分印象に残る作品となりました。
さすがにここまでマッチョになるまで体を鍛えあげてしまうのは困りますが、男ならば筋肉のついた引き締まった体は憧れるものだと思います。
ところで筋肉と言えば、今ダイエットのために毎日、筋トレしたり走ったりしているのですが、効率よく筋肉をつけようと、最近は毎晩プロテインを飲むことが日課になっています。
実はこのタンパク質の塊を水に溶かして飲む粉末を味わうのが、毎日楽しみで仕方がありません。
けして美味しいものでは無いのですが、なんか癖になってしまったようです。
今家にあるプロテインがそろそろ無くなりそうなので、昨日Amazonで新しいプロテインを2㎏ほど注文したばかりです。
届くのが楽しみです。
関係ない話になってしまいました。
打ち出しは金属の作品を作る人にとっては役に立つ無くてはならない技術ですよ、というお話でした。